2014年11月15日土曜日

プールは万能スポーツジム(14.11.15)

 スポーツクラブのプールを利用したことのある人はわかると思いますが、一昔前と違いプールでは、泳ぐ人より、歩く人の方が多くなっています。つまりプールというのは必ずしも泳ぐための場所ではなくなっているのです。
 プールの中で音楽に合わせて行うアクアダンスも人気があります。水中で行うストレッチは、陸上よりも筋肉がゆるみやすくなるので、とても効果的です。
 また、プールでは水を抵抗にした筋力トレーニングも可能です。動くスピードを上げれば負荷は増大し、手のひらに水かきのような道具をつけて抵抗面を大きくすることでも負荷は大きくなります。
上でも、横でも、斜めでもあらゆる方向に抵抗をかけることができるのも水中筋トレの特徴でしょう。


水中であえてゆっくり動くという方法で、浮力を利用した関節モビリゼーション(関節運動)を行うこともできます。出来るだけ力を使わず関節を無理なくゆっくりと動かします。そうすることで関節内の骨同士の動きが滑らかになり、周囲の筋肉もほぐれてきます。このタイミングを逃さずストレッチに移行すると筋肉が気持ちよく伸びやすくなります。
 ただ注意しなければならないのは、プールは体温より低いので動きのないスタティックストレッチを長い時間続けていると体が冷えてしまいます。ダイナミックな動きと、うまく組み合わせる必要があるでしょう。
 膝に慢性的な痛みがある方でもプールの中では浮力が働くため、かなり楽に動くことができます。陸上の運動と組み合わせて行う「ひざ痛予防緩和プログラム」も効果的でしょう。
このように現在のプールの活用法を見てみると、「プールは万能スポーツジム」であるということができそうです。但しこのような多面的な活用法は、クラブを利用される方には常識であっても、一般的には、プールはやはり泳ぐところというイメージが強いのかもしれません。
 前回のコラムで、「水泳指導プログラムの姿勢教育としての側面」について書きましたが、今後はプールの価値を見直し、新たな視点でプールファン増を考える必要があるのかもしれません。

2014年9月19日金曜日

姿勢教育としての水泳(14.09.19)



 水中を効率的に進むための姿勢を「けのび」といいます。
 初心者水泳では、水中の基本姿勢づくりを繰り返し練習します。抵抗の少ない真っ直ぐな姿勢で水中・水面を滑っていく動作であるこの「けのび」は、とても重要な基本練習です。
 「けのび」の次のステップでは、この姿勢を維持しながらバタ足〈キック〉で進む練習をします。さらに、手の動作、呼吸動作などへとステップアップしていきます。

 ところで、最近、体幹トレーニングが注目されていますが、水泳や水泳のキック動作では体幹部の筋肉がよく使われることをご存知でしょうか。水泳は固体との接触がなく不安定な浮遊位で手足を動かさなければならないため体幹部の安定性が求められます。それは、体軸(体幹)をコントロールして抵抗の少ない水中姿勢をつくるためにも必要なことです。

 初心者の段階から取り組む「けのび」や「けのびキック」は、水中姿勢トレーニングと表現することもできるでしょう。速くキレイに泳ぐための必要条件であり、中級クラスでも上級クラスでも泳ぎの上達には重要なポイントとなります。
 水中ではスピードの二乗に比例して抵抗が増大します。速く泳げば泳ぐほど抵抗が大きくなるということです。したがって競技水泳ではいかに抵抗を排除するのかが重要になります。水中姿勢のテクニックが勝敗に大きく影響するからです。このようなことからも競泳というのは「いかに抵抗の少ない姿勢をつくれるのかを競う競技である」という見方ができるかもしれません。

 前回のコラムは「子供のロコモ」がテーマでした。不良姿勢の子どもが増えていると感じている教員が、7割近くいるという報告もあります。
 子供を取り巻く環境や身体リスクの現状を認識しながら「姿勢教育」という観点からも、「子供の水泳」をとらえる必要があるのかもしれません。

2014年8月27日水曜日

子供のロコモ?!(14.08.27)


 筋肉や骨や関節など体を動かす器官を運動器といいます。運動器に何らかの問題(障害)があると、スポーツ動作はもちろんのこと日常動作もその影響を受けることになります。それが進行していき、1人で椅子から立ち上がれないとなれば、人の手が必要になります。つまり、要支援、要介護への道が始まるとことを意味します。
 このように、運動器に問題を抱えており、将来寝たきりになるリスクが高い状態にあることを「ロコモティブシンドローム」、通称「ロコモ」といいます。


 ロコモはあくまでも、「QOL維持向上のためには運動器を健全に保ちましょう」という中高年へのメッセージと考えていました。
 ところが最近は、「片脚でしっかり立つ、手を真っ直ぐに上げる、しゃがみ込む」というような基本動作ができない子供が急増していると聞きます。
 雑巾がけをしても腕で支えることができず、顔から落ちていく子供がいることなど昔では考えられなかったことです。このような子供のロコモ予備群化ともいうべき問題は確実に広がっているようです。

 姿勢の崩れた子供が増えていることは、以前から気になっていました。これも一連の運動器トラブルの一つといえるでしょう。ゲーム、スマホ、塾通い(=長時間座位の増加)は子供のスタンダードライフになっています。よい姿勢づくり(筋骨格系統のバランスいい発育発達)につながる日常の身体活動が減少していることが大きな要因のひとつであることは間違いないでしょう。ロコモはメタボにつながり身体リスクはますます高まることになります。

 文科省は運動器教育の導入を検討しているようですが、ひょっとすると、これは身近な大人を見ながら育った結果なのかもしれません。
 現実を冷静に眺めると、子供の親や教員も、子供と同様、姿勢改善をはじめとしたロコモ対策が必要な状況にあるのではないでしょうか?
 「隗より始めよ」という言葉がありますが、子供たちを導く立場である大人が、自身のことに気づいて改善していくという自覚と行為なしに、子供たちばかりに結果を求めることには無理があるのかもしれません。

2014年7月25日金曜日

トリックモーション(14.07.25)


 今でも、週に1~2回ジムに通っています。
 学生時代はとにかく重い物を持ち上げようとしていました。振り返ると無茶なトレーニングでした。
 恐らくその影響だと思いますが、上部胸椎に慢性化した違和感が今でも残っています。ヒップを浮かせて行うようなベンチプレスは、昔から行ってはいませんでしたが、骨盤を右方向にローテーションさせるクセがありました。当時は全く気づいていなかったのですが、この動きのクセが胸椎の痛みに繋がったと考えています。注意してみなければ分かりづらい、比較的小さなトリックモーションだったためか、人から注意されたこともありませんでした。 気がついたのは「バランス」や「動作改善」に興味を持ち探求を始めた頃なので、その小さな?クセを数十年間放置していたことになります。「雨垂れ石を穿つ」という言葉がありますが、微細なダメージが蓄積していったのでしょう。


 小さなものから大きなものまで、トリックモーションはどこのジムでも横行しています。大きいものは分かりやすいですが、見逃されてしまう可能性が高いであろう小さなトリックモーションの方が、リスクがより大きいといえるのかもしれません。 
戦略的に行う場合もあるのですが、筋骨格系のバランスを崩し将来に禍根を残すような動作方法は戒めなければなりません。
 健康づくりの場で、健康を損ねるという不幸。
 これは何としても避けなければなりません。
*トリックモーション: ごまかし運動のこと。ある運動を行うとき、主役となる筋肉が弱かったり、関節に何らかの障害がある場合などで、サブの筋肉(補助筋、協同筋など)が過剰に働き、見かけ上は、同じような運動がなされる現象。 

2014年5月12日月曜日

シニアに大切なのは「きょうよう」と「きょういく」(14.05.12)


 教養ではなく「今日、用がある=きょうよう」、教育ではなく「今日、行くところがある=きょういく」というシャレなのですが、実はかなり本質に迫ったメッセージでもあります。
 心理学者 多湖輝さんの「100歳になっても脳を元気に動かす習慣術」という著書にある言葉で、「ボケないための頭の使い方を実に巧みに表現した言葉」と、昨年、天声人語でも紹介されました。
 用があり、いつも行くところがある人は、生活が活動的で体も頭も常に刺激を受けることになります。一方、用がなく、出かける機会もなくなり、家に閉じこもりがちな生活は、半ば寝たきりのような生活といえます。
 脳への刺激も身体活動量も極端に減少してしまい、その環境に適応するように心身は虚弱化に向かいます。まさに寝たきりの予備軍であり、リスクの高い状況となります。
 このように考えると、シニアには「きょうよう」と「きょういく」が大切であるということがよくわかります。


人は、周囲の関心を集めながら、人生の所々で重要な選択を繰り返します。そして、明確な目標を持ち、毎日を忙しく過ごしていた人にも、定年を境に生活が一変する時期が訪れます。
 それまでとは異なり、リタイア後のライフスタイルの選択について周りの人が関心を示すことは、恐らく少ないでしょう。
 しかし、ここは、その後の人生を左右する大きな岐路であり、この選択ほど、本人にとって重要なものはないのかもしれません。

2014年4月6日日曜日

足首をやわらかく使うと、ヒザ曲げ動作がラクになる(14.04.06)


 厚労省研究班の調査では、ヒザ痛に悩む中高齢者は全国で1800万人。 65歳以上では3人に1人の割合。ヒザ痛者が要介護に移行するリスクは、5.7倍と試算しています。
 虚弱化した高齢者に筋トレを勧め介護予防につなげようとする考えがありますが、ヒザに痛みがあれば筋トレどころではありません。腰痛も同様ですが、痛みの緩和や不自由な日常動作を改善することが優先されるべきでしょう。

 動作意識や動作法を少し変えるだけでヒザや腰への負担が軽減され、ラクに動作できるようになることが少なくありません。例えば、ヒザを曲げる時、ヒザだけが曲がることはありません。必ず、股関節と足首が同時に動きます。ヒザの曲げ伸ばし動作では、ヒザを意識するのではなく、股関節を意識しながら上手く使えるようになると、ヒザへの負担が軽くなります。


高齢者教室などで、股関節の使い方を説明するのですが、そもそも股関節そのものが意識しづらく動作習得が難しい場合もあります。そういうケースでは、股関節を意識するのではなく、足首をやわらかく使う方法を勧めます。
 具体的には左右の足裏全体がバランスよくフラットに接地した状態を維持しながらヒザの曲げ伸ばしを行います。そうすると足首・ヒザ・股関節がバランスよく連動した動作となるのでヒザ屈伸がラクになります。

 女性ではヒザを曲げるときに、ヒザが内側に入り過ぎる人を多く見かけます。これはヒザを痛めやすい動作なので修正したいところですが、ヒザの動きだけを意識しても直すことは難しいでしょう。
 このような動作をする人は足裏の内側に体重が乗っていますので、足裏感覚からアプローチする方法が有効かもしれません。内側・外側・爪先側・踵側のいずれにも偏ることなくバランスよく足裏全体でフラットに接地しながら動作することがポイントです。そうすることで、捩じれを防ぎヒザを良い位置にキープした動作をすることができます。

2014年2月13日木曜日

上を向いて歩こう(14.02.13)

 人の呼吸はその時の感情に影響を受け変化します。怒りのときは強い呼気の連続、泣いているときは強く連続した吸気を行っています。興奮を鎮めるための深呼吸は誰もが経験していると思いますが、呼吸や形を整えることが内面にも影響します。

 呼吸とおなじように、心の様子も顔や姿勢、仕草に現れます。例えば、サッカーの試合結果で選手が皆、肩を落として、うつむき加減といった写真が掲載されれば、たとえ後姿であっても、写真だけで「負けた」ことがわかります。

 話は変わりますが、中年以上の方で坂本九が歌った “上を向いて歩こう” という曲を知らない人はいないと思います。1963年の歌ですが、米国ビルボード誌で1位を記録した、いまだに「アジア圏では唯一の曲」だそうです。
 実はこの曲は、「涙がこぼれないように上を向いて歩こう」という悲しい詞なのですが、九ちゃんが笑顔で「上を向いて・・・」と語りかけるように歌ったイメージが強く、「元気を出して、前を向いて」と呼びかけているように聞こえます。
 
ところで、「しっかり前を向く」「視線を上げる」という行為は、「自信、決意」というような力強さをイメージさせます。一方で、下を向く仕草には、「落胆、失望」といったネガティブなイメージもあります。
 この曲の快挙から半世紀が過ぎたのですが、最近は、電車のなかでも、歩いているときでも、うつむいている人が急増しています。うつむき症候群とでも名付けましょうか。うつむいた視線の先にあるのは手の中の小さな画面。便利なツールですが、何事もやり過ぎは禁物です。
 前かがみの姿勢になるとココロまで沈んでしまいます。
 さぁー、視線を上げて。

2014年1月25日土曜日

あぶない! 目の前の高齢者が・・・(14.01.25)

 パソコンを持ち込みファミレスで仕事をしていました。すると突然、大きく腰が曲がった70代半ばくらいの男性が目に入りました。左手にコーヒーカップを持ち、4m先の自分の席に戻ろうしているところでした。
 上半身は床と平行になるほど曲がり、さらに右半身にはマヒがあり、自力で歩くのは無理としか思えない様子でした。それでも特有の足運びで5cmずつ、かろうじて前に進んでいます。左手のカップは傾き、今にもこぼれそうです。

 「あぶない!」と思った瞬間、中年の女性がものすごいスピードで席から飛び出し、助けようと男性に手を伸ばしました。ところが男性は女性に向かって一喝するような強い調子で「いいです!」と制止したのです。男性は不機嫌のようにも見えました。
 驚いた女性は自分の動きに急ブレーキをかけました。「どういうこと?」とでもいいたげな困惑した表情です。
 予想外の光景でした。親切な女性に支えられて安全に歩いていく姿を周りの誰もが予想していたことでしょう。男性はその女性にお礼をいうこともありませんでした。目をやることもなく、危なげな足取りで、時間をかけて自分の席に戻って行きました。誰もが絶対にこぼれると思ったコーヒーはこぼれませんでした。


人間の身体感覚はスゴイと思いました。周囲の目とは裏腹に、男性は粗相をせずに席に戻る100%の自信があったに違いありません。
 帰り際の駐車場で、また、その男性を見かけました。おぼつかない足取りで時間をかけながらクルマに向かっています。「まさか?」と思いましたが、運転席に乗り込み、あっという間に走り去っていきました。
 不自由なカラダであっても人の手を借りず、すべてのことを自力で行うという強い決意を持って暮らしているのでしょう。
 「支え」と「自立」ということについて考えさせられた日でした。