図1 けのび姿勢

ところが、図2のように肩関節が硬い人は、腕を進行方向に真っ直ぐに伸ばすことが できません。
図2 肩が硬くて前方に腕を伸ばせない

このような人に、まっすぐ前方に腕を伸ばすことを強要すると、背中や腰を必要以上 に反らし(トリックモーション)、その代償動作によって、腕を前方に伸ばそうとしま す(図3)。
このような無自覚的に起こるトリックモーションは、高齢者がラジオ体操で腕を頭上 に伸ばすときなどにも、よく見られます。肩の硬い人は、腕を上に伸ばすときに腰を大 きく反らします。
図3 無理に前方に伸ばそうとすると腰背部が過剰に緊張する

このような姿勢では肩関節に大きな負荷がかかるばかりではなく、腰背部が過剰に緊 張するため、腰痛を起こす危険性があります。
水泳ばかりでなく、ボールを投げたり打ったりする、腕を頭上に振り上げるスポーツ では、肩の硬さが原因で腰痛が起こったり、逆に股関節の硬さが原因で肩や肘を痛める ことがあります。
このようなことからも動作を見るときは、部分にとらわれ過ぎないように注意する必 要があります。あくまでも体全体を見ることが基本であり、その上で部分を捉えるべきでしょう。

かなり昔のことですが、競泳男子100m自由形の限界は50秒であるという、某科学者の実験データーに基づく主張がTVや新聞で紹介されたことがあります。しかし、それから間もなくして開催されたモントリオール五輪(1976年)の100m自由形決勝では、アメリカのジム・モンゴメリーが50秒の壁を破り、49秒99という記録を出して優勝しました。
このようなことを考えると、栄養素やカロリーについての情報は多いのですが、それを食す時の心身の状態と栄養吸収との関係や、食事・活動・休息の順番やタイミングに関する情報がとても少ないことが気になります。
関節をまたいで筋肉が骨についており、筋肉を縮めることで動作が起こります。したがって、しっかりと動作を行うためには、適度な筋肉の強さが必要です。このことは、筋肉を“鍛える”という発想につながります。しかし、動作に影響を及ぼす筋肉同士のバランスを調えるという発想も、忘れてはならないでしょう。


アフリカのブッシュマンとロンドンの住民の血圧を比較したTruswellの興味深い報告(1972年)があります。ロンドンの住民は、加齢に伴い血圧が急上昇していますが、20~75歳までのブッシュマンの年代別血圧は、上が120mmhg前後、下は70mmhg前後で加齢に伴う血圧上昇がありません。

腰痛に限りませんが、運動器に痛みや違和感を抱える人は、特有の姿勢や動作のアンバランスを示していることが多いようです。このようなアンバランスをノーマルな状態に回復させるようなアプローチをして、姿勢や動作回復を導ければ、結果として痛みや違和感が消失あるいは緩和することも少なくありません。